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最高裁判所第三小法廷 平成7年(行ツ)143号 判決

上告人

祝原誠

被上告人

大東市長

近藤松次

右訴訟代理人弁護士

俵正市

重宗次郎

苅野年彦

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

井川一裕

横山耕平

右指定代理人

松本哲

外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

一  本件は、被上告人から昭和六三年度及び平成元年度の国民健康保険税(所得割額)並びに同年度及び平成二年度の国民健康保険税(被保険者均等割額及び世帯別平均割額)の各賦課処分(以下「本件処分」という。)を受けた上告人が、本件処分の無効確認を求めるものである。そして、上告人が、本件処分の無効事由の一つとして、昭和六三年以前に交通事故に遭い傷害を負って、それまで行っていた仕事ができなくなり、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき生活費の支給を受けていたから、雇用保健法一二条により、上告人に国民健康保険税を賦課することは禁じられている旨主張していることは、原判決の摘示するところであり、また、記録によれば、上告人は、上告人の作成したとされる昭和六三年度分及び平成元年度分の国民健康保険税申告書の成立を否認し、同申告書に記載のある昭和六二年及び昭和六三年の上告人の給与所得各一〇〇万円の存在を争っているものと認められる。

二  原審は、上告人は、大東市保険課国民健康保険税の担当係員に対し昭和六二年及び昭和六三年について各一〇〇万円の給与収入があった旨申告したので、右係員が、前記国民健康保険税申告書にその旨記載して、上告人に内容を確認してもらった上で、署名、押印を得て、その提出を受けたと認定した上、右各給与収入があったとして各年度の国民健康保険税額を計算すると、本件処分の金額となるから、本件処分は法令にのっとって適法にされたものであり、雇用保険法一二条は失業等給付として支給を受けた金銭を標準とする租税その他の公課を禁ずる趣旨のものであって、本件処分の違法の根拠たり得る規定ではないなどとして、本件処分に無効事由はないと判断した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

雇用保険法一二条が本件処分の違法の根拠たり得る規定でないことは、原審の説示するとおりである。しかし、上告人の前記主張によれば、上告人は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき生活費の支給を受けていたというのであるから、右生活費というのは、同法一八条に規定する雇用対策法の規定に基づく手当のことを指すものと解することができる。そして、同法一三条は、求職者等に対し職業転換給付金を支給することを規定しており、これが右の手当に当たるところ、同法一七条は、「租税その他の公課は、職業転換給付金(事業主に対して支給するものを除く。)を標準として、課することができない。」と規定しているから、結局、右の手当については、これを標準として租税を課することができないものというべきである。そうすると、上告人が職業転換給付金の交付を受けていたとすれば、これを所得とみて国民健康保険税の所得割額を課税することは許されず、また、地方税法七〇三条の五第一項及び大東市市税条例(昭和三一年大東市条例第三五号)一一〇条によれば、総所得金額及び山林所得金額の合算額が所定の金額を超えない場合には、国民健康保険税の被保険者均等割額及び世帯別平均割額を減額するものとされているのであるから、右総所得金額に職業転換給付金を含めて右規定を適用することも、許されないものといわなければならない。そして、雇用対策法一七条が、事業主に対して支給されるものを除く職業転換給付金が求職者等の生活や求職活動を支えるための給付であることを考慮して、これに課税することを禁止していることに照らせば、本件処分が右の各禁止に違反してされたとするならば、本件処分には課税要件の根幹についての過誤があるものというべきであり、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌しても、なお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として上告人に本件処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的な事情のある場合に該当するものというのが相当である(最高裁昭和四二年(行ツ)第五七号同四八年四月二六日第一小法廷判決・民集二七巻三号六二九頁参照)。

原審は、上告人が昭和六二年及び昭和六三年について各一〇〇万円の給与所得があった旨を申告したと認定しているが、上告人の前記主張に照らし、そこでいう給与所得なるものの全部又は一部が職業転換給付金であった可能性を否定することができないのであって、右申告の事実から直ちに、右給与所得があったとして各年度の国民健康保険税額を計算すると本件処分の金額となることを理由として、本件処分が法令にのっとって適法にされたものであると即断することはできないものというべきである。そうとすれば、上告人が雇用保険法一二条という誤った法条を指摘し、雇用対策法一八条を援用しなかったからといって、上告人の収入が実際に給与所得であったのかどうか、殊に職業転換給付金を含むか否かを確定しないまま本件処分を適法とした原審の判断には、審理不尽、理由不備の違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すべきである。よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官山口繁 裁判官元原利文)

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